風景写真を撮影していると画面全体にピントを合わせたパンフォーカスで撮影したいというシーンが多々あります。
そして、これを上手く実現させるのにフィルムカメラ時代から「過焦点距離」というものが使われてきました。
私もこれを念頭に撮影することがありましたが、どうも上手くいかないように思っていました。ピントが甘くなるのです。
そこで、色々と試してみました。
過焦点距離とは??
ある一点にピントを合わせた時に、そのピント位置の前後にもピントが合ってるように見える範囲があります。
これを「被写界深度」と言います。ご存知の方も多いかと思います。ピントの合う範囲といっても良いと思います。
そして、ピント位置を徐々に遠くにしていくと、被写界深度の向こう側が無限遠まで続くように見える位置があります。
そして、この位置で一番カメラに近いピント位置を「過焦点距離」と言います。
もし、これをいきなり無限遠にピントを合わせてしまうと手前側の被写界深度が浅くなってしまい上手くパンフォーカスを得られなくなってしまいます。
これでは山にピントが合っても手前の花にはピントが合いません。
また、もし過焦点距離よりも手前にピントを合わせると無限遠にピントが合いません。
無限遠が被写体深度に入っていません。これではパンフォーカスは得られません。
ちなみに、絞れば被写界深度は深くなりますが、絞り過ぎると回折現象が起こり解像感が落ちてしまいます。
というように、過焦点距離は無限遠に被写界深度がかかり、かつ手前側も最大限に被写体深度に納めることのできる位置です。
過焦点距離にピントを合わせることで絞り過ぎずに効率的に広いピント範囲を得ることができます。
過焦点距離を計算してみよう
公式がありますが小難しいです。
過焦点距離(㎜)=焦点距離(㎜)×焦点距離(㎜)÷F値÷許容錯乱円(㎜)
です。
まず、許容錯乱円って何??という感じですね。
許容錯乱円とはピンボケの判断基準に使われる数値のようです。フィルム時代の感光物質の粒子の大きさやA4サイズくらいでの鑑賞に堪えるよう決められたものらしいです。具体的には0.026㎜〜0.0333㎜を用いるようです。
この過焦点距離を求める計算ですが、ネットで計算してくれるサイトもありますし、スマホにも計算アプリがあるので自分で計算する必要はありませんが、試しに一度計算してみたいと思います。
焦点距離16㎜、F11の設定でやってみます。許容錯乱円は0.0333㎜で計算します(フルサイズ機と仮定して。センサーサイズによって値は変わります)。
16×16÷11÷0.0333=698.880699となります。よって、過焦点距離は約700㎜で大体0.7mとなります。
焦点距離16㎜、F11の時はカメラ(センサー)から約0.7mくらいの位置にピントを合わせれば、無限遠までピントが合うようになり、また手前側も最大限にピントが合うようになります(過焦点距離の半分の距離からピントが合います)。
したがって、焦点距離16㎜、F11ではカメラ(センサー)から約0.7mくらいの位置にピントを合わせれば、手前0.4mくらいから無限遠までピントが合うと言えます。
試してみた
今回は先ほど計算した焦点距離16㎜、F11で試してみます。
中央にあるスリックの三脚の雲台にピントを合わせます。
この三脚は カメラのマウントから約1mの位置にあります。今回の過焦点距離は約0.7mなのでこれを十分満たしてるはずです。
また、比較のために向こう側の山並み(無限遠)にピントを合わせた写真も用意します。
これが遠くの山並みにピントを合わせた画像です。
そして、下画像のように赤枠をそれぞれ等倍にして比較してみます。
過焦点距離の理論によると同じ様にピントが合うはずです。
上が三脚にピント、下が山並みにピントを合わせた画像です。
全然違います。もちろん、手ぶれは一切していません。
三脚にピントを合わせた画像はあまり解像していません。一方で、山並みの方は解像しています。
よって、焦点距離16㎜、F11ではカメラ(センサー)から約0.7mくらいの位置にピントを合わせれば、手前0.4mくらいから無限遠までピントが合う、とは言えないようです。
なんだかすっきりしませんね。
ちなみに、山並みにピントを合わせた方は、手前の三脚部分はあまり解像していません。
上が三脚にピント、下が山並みにピントを合わせた画像です。
これも差がありますね。
なぜ過焦点距離の理論通りに行かないのか??
過焦点距離はフィルム時代の産物であり、現代の高画素化が進んだデジタル一眼レフカメラの時代には合わなくなってきている可能性があります。
写真を見るモニターも解像度が増していますしね。
したがって、許容錯乱円の0.026㎜〜0.0333㎜というのが甘い基準になっている可能性があります。
例えば、D750は2432万画素で画素ピッチ(一画素と一画素の距離)は0.0049㎜となります。許容錯乱円=画素ピッチとは言えませんが、仮にこれを許容錯乱円の値として先ほどの計算をし直すと、過焦点距離は約4.74mとなります。先ほどの約0.7mとはかなり違いますね。
これは厳密過ぎますが、例えば下の写真。両方とも焦点距離16㎜、F11で撮影です。
それぞれ、下画像のように黄色枠の部分でピントを合わせて撮影しています。
中央付近の黄色枠は約2.5m離れた位置です(1枚目)。もう一方の黄色枠は遠くの山並みです(2枚目)。
そして、それぞれ下画像の赤枠の部分を比べてみます。
上画像が中央付近のカメラから2.5mにピント、下画像が山並みの遠くにピントを合わせた画像です。
ほぼ同じに見えますが細かく見ると、上画像のカメラから2.5mの位置にピントを合わせた画像よりも、下画像の遠くの山並みにピントを合わせた画像の方がくっきり写っているようです(手前側にも差が出ていました)。
焦点距離16㎜、F11でカメラから2.5mの位置にピントを合わせても遠くの方はそこまで解像しないようです。ただし、先の比較ほどの差ではありません。
2400万画素ではこれくらいですが、3000万画素や5000万画素になると、もう少し大きな違いになると思います。
ということで、高画素化が進んだデジタル一眼レフでは、画面全体でぱきっと解像感を出させるのは難しいのもかもしれません。
超広角の撮影であったとしてもピントの位置はシビアです。
しかしながら、人は手前側に視線が集まる傾向にあるので、奥側よりも手前側にピントを合わせた方が良い結果を生みます。奥側にピントが合っていても、手前側がぼやけていると写真全体としてぼやけた印象になってしまいます。逆に、奥側がぼやけていても広角では小さくしか写らないので殆ど気になりません。なので、手前側の方がより重要です。
ちなみに、被写界深度は手前1/3、奥2/3で広がるので、パンフォーカスでは画面の下1/3の位置にピントを合わせるのが良いと言われています。
まとめ
過焦点距離では甘くなるなという疑問がこれでスッキリしました。
もちろん、目を引いたものがあればそれにピントを合わせるのが一番なんですけどね;)